
お盆の時期が近づくと、ご先祖様をお迎えするための準備に迷われる方も多いのではないでしょうか。
お供え物や飾り付けを選ぶ際、「お盆に縁起物はある?」と疑問に思う方もいらっしゃると思われます。お正月や結婚式のような華やかなお祝い事とは異なり、お盆は静かに故人を偲び、供養を行う行事です。そのため、「縁起物」という言葉の響きに少し違和感を覚えるかもしれません。
しかし実際には、お盆の風習のなかにも、ご先祖様の供養や家族の健康、平穏無事を願う「ふさわしい縁起物」が数多く存在します。一方で、一般的なお祝いの場では大変縁起が良いとされている品物が、お盆の時期には「避けるべき縁起物」に変わってしまうことも少なくありません。
良かれと思って選んだ品が、実は仏事のマナーにそぐわなかったという事態は避けたいものです。
この記事では、お盆にふさわしい縁起物の種類やそれぞれに込められた意味、そして失敗しないためのお供え物の選び方について、実際の経験を交えながら詳しくお伝えします。正しい知識を持つことで、ご先祖様へのおもてなしの心がより一層伝わるはずです。
お盆にふさわしい縁起物は存在します

お盆は、仏教の教えと日本古来の祖霊信仰(ご先祖様を大切にする民間信仰)が結びついて発展してきた行事です。そのため、お盆における縁起物とは、商売繁盛や出世といった現世の利益を求めるものではなく、「ご先祖様が迷わず帰ってこられるように」「家族が健康で心安らかに過ごせるように」という祈りが込められたものを指します。
供養の基本となる「五供(ごく)」の考え方
お盆に限らず、仏教の供養において基本となるのが「五供」と呼ばれるお供えの作法です。以下の5つを揃えることで供養の環境が整い、それ自体が縁起を良くする基本のセットと考えられています。
- 香(こう):お線香や抹香。香りが空間を清め、ご先祖様への食事になるともされています。
- 花(げ):供花や仏花。美しい花を飾ることで、仏様の慈悲を表します。
- 灯明(とうみょう):ろうそくの灯り。暗闇を照らし、迷いを払う知恵の象徴です。
- 水(すい):きれいなお水やお茶。清らかな心を保つ意味があります。
- 飲食(おんじき):私たちが普段食べるご飯や果物、お菓子などのお供え物です。
これら五供を正しくお供えすることは、ご先祖様に対する最高のおもてなしとなります。仏具店やスーパーのお盆用品コーナーを見ると、これらがセットになって配置されていることも多く、現代のライフスタイルに合わせて選びやすくなっています。
お盆の時期に用意したい代表的な縁起物と選び方
では、具体的にどのようなものが「お盆の縁起物」として親しまれているのでしょうか。スーパーの特設コーナーやネット通販のセット商品でもよく見かける代表的な品物と、そこに込められた意味をご紹介します。
迷わず帰ってきていただく「精霊馬・精霊牛」
お盆の風物詩として最も有名なのが、きゅうりとなすで作る「精霊馬(しょうりょううま)」と「精霊牛(しょうりょううし)」です。
きゅうりで作った馬には「ご先祖様が少しでも早く家に帰ってこられるように」という願いが、なすで作った牛には「景色を楽しみながらゆっくりと戻っていけるように」「たくさんのお供え物を背負って帰れるように」という優しい気遣いが込められています。
また、なすは「花が咲けば必ず実を結ぶ」という性質があることから、「何事も成し遂げる(なす=成す)」という縁起物としても古くから親しまれてきました。
以前、実家のお盆準備を手伝った際、スーパーの野菜売り場できゅうりとなすを真剣に選んだ記憶があります。単なる料理の食材としてではなく、「このカーブなら乗りやすそうだな」「このなすはどっしりしていて安定感がある」と考えながら形を見繕う時間は、ご先祖様を想う大切なひとときだと感じました。近年では、本物の野菜の代わりにガラス製やちりめん素材で作られた可愛らしい精霊馬の飾りも人気を集めており、マンションなどでも手軽に縁起を取り入れられるようになっています。
幸せが末永く続くことを願う「そうめん」
夏の贈答品として定番の「そうめん」も、実はお盆に深い関わりを持つ縁起物です。
そうめんをお供えする理由にはいくつかの説が存在します。ひとつは、細く長く伸びる麺の形状から「家族の幸せやご縁が末永く続くように」という願いを込めた縁起物とする説です。もうひとつは、精霊馬に乗って帰るご先祖様の手綱(たづな)や、お供え物をくくりつけるための荷縄に見立てるという説もあります。
さらに、「そうめんを食べると夏の熱病にかからない」という古い伝承もあり、家族の無病息災を祈る意味合いも含まれていると考えられます。乾麺のままお供えする地域もあれば、茹でてからお膳に並べる地域もあり、それぞれの土地の文化が色濃く反映されるお供え物でもあります。
邪気を払い家族を守る「おはぎ(ぼたもち)」
お盆の時期に和菓子店やスーパーに並ぶ「おはぎ」も、忘れてはいけない縁起物のひとつです。
おはぎに使われる小豆の「赤色」は、古くから魔除けや厄除けの力があると信じられてきました。ご先祖様へのお供えと同時に、家族の周りから邪気を払い、平穏な暮らしを守るという祈りが込められています。
また、小豆を煮て砂糖を加え、もち米と合わせるという手間のかかるお菓子をあえて用意することで、ご先祖様への感謝の気持ちを形にするという意味も持ち合わせています。
殺生を避ける「精進料理」と季節の果物
仏教の「不殺生(生き物を殺さない)」という教えに基づき、肉や魚、卵を使わずに野菜や豆類、穀物で作られる精進料理も、お盆にふさわしい縁起の良い食事とされています。
精進料理を用意することは、それ自体が仏教的な善行を積むことにつながると考えられています。また、お供え物として季節の果物や野菜を飾ることも一般的です。旬の恵みは「自然の実りや豊穣の象徴」であり、丸い形をした桃やメロン、スイカなどは「角が立たず円満に過ごせる」という意味を持つ縁起物として好まれます。
お盆には不向きな「避けるべき縁起物」にご注意を
ここまでお盆にふさわしい品をご紹介してきましたが、「お盆に縁起物はある?」と調べる際に最も注意したいのが、お祝いの場では重宝されるのに、お盆の時期にはマナー違反となってしまう品物の存在です。
鰹節や昆布などのお祝いを連想させる品
お供え物を選ぶ際、日持ちのする乾物は重宝されます。しかし、乾物のなかでも「鰹節」と「昆布」は避けるのが無難です。
- 鰹節:「勝男武士」という語呂合わせや、削る前の形が夫婦一対になることから、結婚式の引き出物など慶事に用いられる代表的な縁起物です。
- 昆布:「よろこんぶ(喜ぶ)」という言葉遊びから、お正月や結納などのおめでたい席に欠かせない品です。
実際にデパートの贈答品売り場でお供え物を探していたときのことです。日持ちがして便利そうだと思い、鰹節や昆布が入った立派な詰め合わせを手に取ったところ、売り場のスタッフさんから「そちらは慶事を連想させる品ですので、お盆や法事のお供えでしたら、こちらのそうめんやゼリーのセットがおすすめですよ」と丁寧に教えていただいたことがあります。
「縁起が良い=どんな場面でも使える」と思い込んでいたため、はっとさせられました。お盆はあくまで供養の場であるため、こうしたお祝いムードの強い品は避けるのが基本的なマナーとなります。
パッケージの色合いや「のし紙」の選び方
中身がお菓子やそうめんであっても、パッケージのデザインには配慮が必要です。
赤や金色をふんだんに使った派手な包装や、紅白の紐(水引)がデザインされたものは、やはりお祝い事を連想させるためお盆には適していません。落ち着いた色合いの包装紙や箱を選ぶようにしましょう。
また、贈り物にかける紙を一般的に「のし紙」と呼びますが、本来「熨斗(のし)」とは右上に添えられる飾りのことであり、これも生臭物(アワビなど)を伸ばしたお祝いの縁起物が由来です。そのため、お盆や法事の際には、右上の「のし」が印刷されていない、水引だけの弔事用掛け紙を使用するのが正しい作法とされています。
縁起が悪いとされるお盆中の行動
品物だけでなく、お盆の期間中に避けるべきとされる行動もあります。
仏教の不殺生の教えから、肉や魚を大量に消費するバーベキューなどは、お盆の時期にはあまりふさわしくないとする風習が残る地域もあります。また、結婚式や入籍、新築の家への引っ越しなど、大きなお祝い事もこの時期は避けるのが一般的です。これは「ご先祖様の供養を最優先にするべき期間」という考え方が根底にあると思われます。
まとめ
「お盆に縁起物はある?」という疑問について、供養にふさわしいお供えと避けるべき品物の両面から解説いたしました。
お盆における縁起物とは、決して派手なお祝いの品ではなく、精霊馬やそうめん、おはぎなど、ご先祖様への感謝の気持ちや家族の無病息災を願う、優しさに満ちた品々です。一方で、鰹節や昆布、華やかなパッケージなど、慶事を連想させるものは、この時期ならではの「避けるべき縁起物」となります。
私自身、お店で品物を比較し、売り場の方のお話を聞いたりしながらお供えを選んだ経験を通じて、品物一つひとつに込められた意味を知る面白さと奥深さを実感しました。選び方の理由を知ると、単なる買い物ではなく、ご先祖様との対話のような温かい時間に変わります。
今年のお盆は、ぜひこうした背景を少しだけ思い浮かべながら、ご家族の形に合ったお供え物を選んでみてください。心のこもった準備が、何よりの供養となるはずです。